ケース紹介

アートセラピーとその効果

アートセラピーでは、絵を描くことはもちろん、さまざまなクラフト制作も取り入れています。
素材や表現方法によって、心に働きかける効果も異なります。
ご自身の状態や気持ちに合った表現を見つけることで、自然にこころが整っていくことがあります。

ドローイング(描く)

「今の気持ちは何色?」
クレヨンなどを使い、塗りつぶす・線を引く・面を作るなど自由に表現します。
不安・悲しみ・やるせなさを表に出すことで、解放感やカタルシスにつながります。
自分のこころを感じながら描くことで、気持ちを吐き出す感覚が得られます。

粘土

粘土

粘土は感情が出やすい素材だとされています。
特に、怒りやモヤモヤを抱えている方におすすめです。
感情をゆがめずそのまま出す体験は、強い安心感をもたらします。
粘土を握る・ちぎる・丸めることで、言葉にできない感情をかたちにすることができます。

コラージュ

絵を描くことに抵抗がある方や、感情に直接向き合うのが不安な方に最適です。
自分に向き合う第一歩として、コラージュはやさしく背中を押してくれます。
雑誌や紙の中から気になるイメージを切り貼りすることで、気づかなかった感情が見えてきます。

ムーブメント

頑張りすぎている人、無理していることに気づかない人に。
身体を動かし、からだの声に耳を傾ける時間を。
「がんばっている自分」をそっと労わる時間になります。
ゆったりとした動きで、自分自身の状態を感じ取ります。


アートがくれた、立ち上がる力(事例紹介)

3年にわたるうつ病を乗り越えたある女性の物語

3年ほど前、ある女性がご紹介で訪れました。
当時の彼女はうつ病で長く仕事を休職し、毎日を辛い思いで過ごしていました。
・心療内科に通院し、抗うつ薬を服用
・それでも回復の兆しはなく、引きこもり状態
・一日の大半をベッドの中で過ごす生活
・セッションの予約をしても、会場まで来られない日々が続きました。

それでも彼女は何度もあきらめず、少しずつ足を運んでくれました

「食事は、まるで砂を食べているよう」
「アリ地獄に引きずり込まれるような感覚」

そう語っていた彼女にとって、日々の生活はまさに苦痛そのものでした。

セッションでは…
アートセラピーの中で、彼女は少しずつ感情を表現していきました。
その感覚を絵に描く
・ムーブメントで身体を動かす
時に涙を流し、時に笑う
・こころの切り替え方をアートで実践的に学ぶ

カウンセリングのように話すだけではなく、全身で感じ・表現する時間
彼女にとっては、きっとドラマティックな自己再生のプロセスだったと思います。

少しずつ変化が訪れる
・セッションの間隔が徐々に開くようになり、回復のサインが見えてきました
・おしゃれを楽しんだり、買い物に出かけたり
やがて職場に復帰し、仕事に少しずつ慣れていきました
・新たな出会いがあり、恋をして、結婚という大きな節目を迎えることができました

セラピーがもたらしたもの
「カウンセリングだけでは得られなかった効果だったと思います」
これは彼女の言葉ではなく、私自身の実感です。

アートセラピーは、言葉にならない気持ちを表現し、自分を取り戻すプロセス。
心がふさがったとき、絵を描き、動き、創り出すことが、もう一度人生を動かす力になる。
そんな確信を私たちに与えてくれる、大切な一例となりました。

大学生や社会人などが集まるNPO法人 グループ人数:50名

アートセラピーの目的: 職員の親睦
ワークショップ内容: 私の大事にしているものを共有する

10名程度のグループに分かれ、各グループがゲーム形式で「自分の大事なもの」を値踏みしていくセッションを実施しました。これは、自分が何を大切にしているのかを見つめ直すことができるワークです。

参加者は何度も考えながら物事の優先順位をつけ、自分自身と他者が何を大事にしているのかを意識することで、より深く「人」を知るきっかけになりました。

大所帯を運営していくのは大変なことですが、このワークショップを通じてお互いの価値観や大事なものがわかり、親近感が生まれたそうです。

「人はそれぞれ大切にしているものが違う」ということを実感できたと話されていました。
今まで以上に信頼関係が築けたことで、これからのNPO活動がさらに楽しみになったとのことです。

京都市内の美術大学での特別講義

アートセラピーの目的: 自己・他者理解
ワークショップ内容: アートセラピー体験「自分を知る」

京都市内の美術大学の学部生および大学院生を対象に、特別講義としてアートセラピーのワークショップを行いました。
学生たちがアートセラピーをどのように受けとめてくれるのか、楽しみにしていました。

セッションでは、純粋に楽しんで描く学生、自分に向き合うことが難しく立ち止まってしまう学生など、反応はさまざまでした。

ワークのテーマは、

  • 自分から見る自分
  • 人から見た自分
  • 人に隠している自分
  • 未来の自分

それぞれの視点から自己を見つめ、絵で表現してもらいました。

なかなか筆が進まなかったり、他の人の絵に感心したり、いつもとは異なる描画体験になったようです。
普段は授業で「上手に描くこと」を求められる美大生たちですが、この日は技術ではなく、思うままに表現するという体験をしてもらえたと思います。

医療職グループでのセッション

参加者: 医療職の部署(5名)
アートセラピーの目的: 意思疎通を図り、スムーズな伝達で仕事上の行き違いをなくす
ワークショップ内容: 性格診断(心理テスト)+アートセラピー(ドローイング)

このセッションでは、あらかじめ実施していた性格診断テストをもとに、セラピストが各人の特徴を分析。その内容を共有しながら進めました。

まずはドローイングによるウォーミングアップからスタート。絵を描くことで心がほぐれ、自然に会話が生まれる雰囲気ができました。

その後、性格診断の結果をみんなで確認し合い、お互いの性格の特徴や反応の傾向について理解を深めました。

「今までは、相手の反応につい苛立ったり、投げやりになっていたけれど、性格の違いがわかってからは、そうなる必要がないと思えるようになった」

そんな声が聞かれたように、自分と他人の違いを知ることで、感情的な行き違いが少なくなり、より適切な言葉を選べるようになりました。

また、性格に合わせた役割分担もスムーズにできるようになり、仕事の流れが格段に良くなったとのことです。

こころとからだのリカバリー~楽しみながら暮らしに戻る~

重度記憶障害のある方へのアートセラピー

参加者: 後天的脳萎縮による障害を持つ方とそのご家族(母)
アートセラピーの目的: 意欲の回復・情緒の活性化・生活の質の向上
ワークショップ内容: ドローイング・クラフト・対話による個別セッション

ある日、お母さまに付き添われて来られたのは、
重度の記憶障害・意欲低下・仮面様顔貌・平衡感覚障害などを抱えた方でした。

セラピー当初は、話すこともできず、椅子に座ったままぼーっとしている時間がほとんど。
**「ただそこにいるだけ」**のような日々がしばらく続きました。

ところが、半年ほど経った頃から、少しずつ変化が現れ始めたのです。
少しずつ言葉が出るようになり、絵を描くことができるようになりました。
さらには、自ら説明書を読んでペーパークラフトに取り組む姿も見られるようになりました。

それからというもの、会話が増え、笑い声や冗談も飛び交うように
ついには作業所への通所が決まり、私とのセッションは一区切りとなりました。

その後もお母さまから近況報告をいただき、
今では作業所で収入を得ながら生活するまでに回復されたそうです。


この経験は、
ご本人の努力、ご家族の献身、医療、そしてアートセラピーの力が合わさったからこそ

「もう回復は難しいかもしれない」と言われていた状況から、
ここまで回復されたことは、私にとっても大きな喜びでした。

寝たきり男性との”顔を描く″セッション

参加者: 高齢の男性とそのご家族
アートセラピーの目的: 心身の刺激・対話による活性化・家族との交流
ワークショップ内容: 顔の描き合い・対話・即興的な描画セッション

ある日、「様子を見てほしい」とご家族からご連絡をいただき、
最近寝たきりになり、トイレも介助が必要になった男性のご自宅を訪問しました。

男性はお話こそできるものの、私のことをはっきりと認識できているかどうかは
少し曖昧なご様子でした。

そこで、お宅にあった鉛筆と広告の裏紙を使い、
お互いの顔を描き合うセッションを即興的に行いました。

私がまず男性の顔を描き、次に男性が私の顔を描きました。
会話をしながら手を動かし、家族みんなで笑い合いました。
久しぶりに家族が笑顔で一緒に過ごす時間となったようでした。

すると、そのやり取りの最中、男性が**「トイレに行きたい」**とおっしゃったのです。
息子さんに支えられながら、ご自身の足で立ち上がり、歩いてトイレへ。

家族一同、顔を見合わせ、私もその場で驚きと感動を覚えた瞬間でした。


なぜ立てるようになったのか、それは医学的に説明のつかないことかもしれません。
けれど私は、この時間こそがアートの力だったと、強く感じました。

その後、寝たきりを脱したとのご連絡をいただき、
アートがもたらす“きっかけ”の可能性に、改めて大きな希望を感じました。

開催場所

京都市西京区川島調子町
(予約が決まったら場所の詳細をお知らせします)

日時

要相談 10:00〜18:00

生涯発達教育支援 りんく・りんく京都
金崎裕美

お問い合わせ

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